多摩川中流域


多摩川の護岸工事、流路変更


ワンド
わんど

 多摩川原橋のやや上流、調布側から眺めた多摩川。写真中央やや左に流れが向こうの河川敷に湾入している場所がある。このような地形をワンドというらしい。(2006年6月撮影)。

 ワンドは本流からはずれた、流れのほとんど無い池のようになった場所。稚魚など河川の生物に安定なすみかを提供し、植生にも多様性をもたらすと言われている。
そのうちいつか向こうの、広くて深いススキが原の河川敷に入り、そのワンドの様子を見てみたいと思っていた。

 その機会が訪れないまま、このワンドは護岸工事で破壊されてしまった。


ワンドへのアプローチ

 実はそのワンドへは1回だけアプローチを試みた。
矢野口側にあるニセアカシアの林からススキが原の河川敷に入れる道を探し、入ってみた。

ニセアカシアの林

 ニセアカシアの林。(あまりよい写真ではないが、本当はきれいな林。)

ススキが原

 ススキ(おぎ)の間の細い道を抜け、ススキの倒伏した広場の先にはまだまだススキが原が続く。先に進める踏み跡は見つからない。

ががいも

 足元では枯れ草の上にガガイモの実が白い綿毛を出していた。

 ススキが原の奥には進めなかったので、またの日に別の道を探して入ってみようと考えた。
そのまたの日は訪れないことになった。


護岸工事

水路変更

 調布側からワンドの方を見た風景。(2006年11月撮影)。
ワンドの上流方向の河原がブルドーザーで掘り取られ、水路になっている。掘った砂利は中州に積み上げられている。

護岸工事

 中州に積まれた砂利は多摩川の本流を遮って道にする工事に使われているようだ。
重機を中州に通す道なのだろうか。

工事

 じつは道を造っているのではなかった。本流そのものを塞き止め、埋め立てる工事だったのだ。 

工事

 四角く区切られた多摩川の本流はどんどん埋め立てられていく。
この工事では調布側に大きく蛇行している本流の流れの向きを変え、かつてのワンドを通る流路にするのが目的のようだ。さらに調布のこちら側は、工事の看板によると、河川敷の下と川岸にコンクリートを敷き詰めた広い護岸にするようである。

 多摩川の流路を変える大工事である。


工事の看板


護岸方法

 護岸工事の後は、元の植生を回復させるように配慮している。
植生は回復する。それはいいのだが、護岸工事で自然の土砂のむき出した岸辺は失われ、まっすぐなコンクリートの岸辺になってしまう。
川岸の味わい、川の自然な蛇行は失われる。

 北海道の根釧原野では、蛇行した川をまっすぐに河川改修したが、また蛇行するように回復工事がおこなわれるという新聞報道があった気がする。

地図

 護岸工事の対象になっているらしい場所がリストアップされている。多摩川の全流域にわたっている。
自然の川の流れがどんどん護岸工事の名で失われていく。


護岸工事を考える


工事

 災害対策。それが護岸工事の目的であり、大義名分だ。その大義名分に反対するのは難しい。
あるいは本当に必要な工事かもしれない。

 しかし、別の見方もできる。
本当にどれだけの必要性があるのか。ほかにもっと自然を生かした方法はないのか。

 数10年前、狛江で集中豪雨のあと、濁流で土手がえぐられ、近くの住宅が数軒流された災害があった。
このとき、なぜ濁流が土手をえぐったのか?
濁流が本流を横切る堰堤に行く手を遮られ、脇の狛江側の土手に激しくぶつかったのが原因だったと思う。

 狛江のような災害は特異な気象だけでなく、別の原因も重なって起きている。
上の地図でリストアップされている危険個所は本当に危険な個所なのだろうか?
どういう条件でどの程度の災害があると予測されているのだろうか?

 それぞれの場所について、工事の必要性、他に何か方法はないのか?、工事が必要な場合、必要最小限の工事はどのような内容のものか? このようなことが、工事受注業者と関係する役所(国交省や自治体)との間だけでなく、広く一般市民に開放されて十分に議論され検討され、合意される必要があるのではないだろうか?





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